猫屋春子はかく語りき

CAT AND SPRING

映画『はちどり』を観てきた

あーつーいーーーー。暗い暗いドン暗い梅雨を抜けたと思ったら、今度は殺人的な暑さがやってくるとは。もう呪われてるねー、日本列島、てか全世界。こんなに暑いと外に出る気にもなりません。

とはいえ、ずっと家の中にいるわけにもいかないということで、昨日映画を観に行って参りました。いま話題の『はちどり』を観てきましたよ。『はちどり』は韓国の映画で、カンヌで賞をとった『パラサイト』よりも脚本的には評価され、韓国・青龍映画賞で最優秀脚本賞を受賞したという作品です。

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観た人の感想では、「とくに何も起こらない」というのが多く見られましたが、いえいえ、きちんと観て下さい。確かに、地球が滅亡の危機に瀕している、ゴジラが火を噴きながらビルをぶっ壊しているなどの馬鹿でかいことは何も起こりません。でも、誰かにとっては取るに足りない出来事の一つ一つが、主人公のウニにとっては彼女の世界をぶっ壊しかねない大事なわけです。

先に行ってしまうと、この『はちどり』は大傑作です。『パラサイト』ももちろん面白かったけれど、『はちどり』も本当に素晴らしい作品でした。とくに女性にこの映画を観てほしいと強く思う。国境を超えて女性なら共感できる様々な出来事に、14歳のウニもまた直面します。それに対して、どうにもできないウニはその不条理さに身動きがとれなくなるほど。でも、そこに現れる1人の漢文塾の先生との出会いが、家にも学校にも居場所がなくて孤独なウニの何かを、大きく変えてゆきます。


世界各国で50冠以上!韓国映画『はちどり』予告編


この先生は女性ですが、立ち位置としてはムーミンにおけるスナフキンです。哲学者。大事なことを、大事な時に教えてくれる人。先生は口数こそ少ないですが、生き方がどうにも哲学者で猛烈にカッコいい。ある時、先生はウニに指を一本一本動かすことを教えてくれます。それは、自分の無力を感じる出来事に直面した時は、自分の指を一本一本動かしてみること、そうすると自分にはまだ指を動かす力があることが確認できる、という意味。このシーンを観た時、ああ、この先生は今まで一体どれほどの無力感に襲われてきたのだろうと思わざるを得ませんでした。無力感を感じさせる出来事に直面する度に、自分の指を一本一本動かして、無力感から逃れようとしたのだと思います。また、そうまで先生にさせる不条理な出来事があったということに、もう号泣号泣号泣です。

自分も性別は女ですが、『はちどり』を観ると、これほど女性にとって世界とは不条理なものかとビックリします。でも、自分は、ウニや先生のように不条理に立ち向かうというよりは、それをまるで存在しないものとして見てみぬふりをしてきたように思う。出来るだけそういう性別的な不条理を感じないよう、感じても「仕方がない」で諦めてきたように思う。それはきっと処世術としては悪いことではないだろうけど、もう少し、自分の周りに存在する不条理に力強く立ち向かっていく勇気があれば、世界や社会の見方が今とは全然違ったものになっていたのかなと考えます。

映画の中でウニの周囲に存在する不条理は、最後まで何1つ解決されません。むしろ、ますますその不条理感は深く強くなっていく。不条理に立ち向かうとは一体どういうことだ?何故世界は私にこれほど不条理なのだ?世界とはそもそも不条理なものなのか?

とにかく、映画『はちどり』は観た方がいい。とくに女性におすすめです。ただ、男性は観ない方がいいかも(笑)でも、自分の言動を振り返る良い機会になったりして。(実は、昨日はちょうどメンズデーだったため映画館は男性のお客さんが多かったのですが、彼らはこの映画を観て一体どう思ったのでしょうか?興味があるなあ。)