猫屋春子はかく語りき

CAT AND SPRING

もしも


Bread - If (with lyrics)

もしも後世で、また人間の女性に生まれ変わることがあるとしたら、次はこんな女性になりたいと最近考える。

学生時代は勉強せず、四六時中男のことや恋愛のことで頭をいっぱいにし、男に受けるファッション記事がたくさん掲載されている雑誌を参考に、男受けしそうな髪型をして、男受けしそうな服装に身を包む。声は通常3オクターブほど高い。比較的ゆっくりしゃべって、周りの男から「〇〇ちゃんは天然だねー」とか言われて合コンでチヤホヤされる。頭もゆるいが股もゆるい。合コンで会った男性を少しでも「いいな」と思えば、簡単にお持ち帰りされる。

20代前半で付き合った男の数は両手以上。セッ〇スをしただけの男はウン十人。就職では面接官に色気や媚を平気で売る。機会があれば身体も売る。「枕営業なんて普通のこと」と言いながら、偏差値の低い短大から一流企業へと入社する。職場でも片っ端から気に入った男を喰っていく。上司も同僚も既婚者も独身も彼女もちも関係ナシ。「男なんてチョロイ」と思う。合コンでも職場でも身体の関係に持ち込めば、男の態度なんてコロリと軟化する。そこそこの容姿で、股がゆるいってのは最強だな。そこそこの容姿でも、化粧をすれば整形したみたいにキレイになることができる。そう思う。

20代後半で結婚する。職場の少し年上のエリート社員とできちゃった結婚をする。そして専業主婦になってタワーマンションの一室に住み、セレブママの仲間入りをする。ママ友が集まるときは、子供たちを遊ばせながら有名洋菓子店のケーキを食べる。紅茶は先日イギリスへ旅行をしたママの一人が買ってきてくれたもの。笑い話に花を咲かせながら、ケーキを食べて紅茶を飲む。幸せだ。幸せを感じる。勉強なんてしなくて本当に良かった。ファッション雑誌を読み漁り、化粧や服装で自分を綺麗に見せることだけを考えてきた結果だ。

いろんな男と寝ながらでも、結婚相手にはエリートをつかまえて、生まれた子供もきっとそのDNAを受け継いでいるから、良い学校へ入って良い会社へ就職するはず。以前、不倫していた人の奥さんからいろいろ股がゆるいとか言われたけど、いまはこんなに恵まれた生活をしているし、逆に倫理を守ったり正直に生きたりするのって、自分が良い人生を歩むためには損でしかないことに気づかないのかな?私、警察につかまるような悪いことはしてないよ。ただ、奥さんのいる人と寝ただけだよ、それも1回限り。あの奥さんも、それぐらいのことで目くじらを立てるなんて可愛そうな人。

夕食を用意する。夫、子供、私の分。夫が帰宅して、穏やかに夕食がはじまる。「美味しい?」と私が聞く。「美味しいよ」と夫が笑顔で答える。子供は顎のところにご飯粒をつけたまま、夕食を食べている。「ほら、ついているよ」私は顎についていたご飯粒をとってあげる。完璧だ、完璧でしかない。こんな後世を遅るためには、私は両親からも学校教育からも誰からも、この世の倫理やルールを学ばないでいることが必要だろう。正直は損、倫理も損、人間の悪は善、人情などいらん、ただただ自分を幸せにしてくれる男のみに向かって行動するだけ。それだけで良いのだ。それだけで幸せになれるあとは何も考える必要はない。