猫屋春子はかく語りき

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そういえば「スリー・ビルボード」を観たという話


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

そういえば2ヵ月ほど前に「スリー・ビルボード」を観てきた。アメリカのアカデミー賞が発表されるより前に観たから1月だったか。アカデミー賞前にすでに公開されておりいろいろな映画評論家が絶賛していた。

様々なメディアで物語のあらすじは説明されているから、ここでは簡単に。娘が強姦殺人によって殺された母親が、その犯人を真面目に捜査しようとしない警察に憤慨し、道端に立てられた3枚の大きな広告看板を利用して警察を非難したことに始まる物語だ。実はこの話、本当の話らしい。不思議なことに、この製作国はアメリカではなくイギリス。何故イギリスで製作されたのかというと(まあ舞台はアメリカだが)、この映画を製作したチームの人がアメリカに来た時に、本当にそういう広告看板を観たらしい。んで「アメリカってどういう国なんだ」って思ったのが製作のきっかけとなったとのこと。

観た感想はすげー面白かった。怒れる大人の姿が最高に痛快。「そこまで怒っていいんだ!」って新鮮な感じを受けた。とくに主役のフランシス・マクドーマンが警察署に火炎瓶を投げ込むところでは心の中で爆笑。ひどいってより痛快で刺激的。私は大好きな映画だ。まあ、怒っている人を見るのは得意ではないという人もいるだろうけど。

この映画、褒めたいところが大きく3点ある。

まず1点目は、メッセージ性が非常にシンプル。怒りの感情がどういうものか、非常にリアルにシンプルに描いている。つまり、怒りは他人の怒りを誘発するということと、怒りの感情は持続しないということ。この2つを描き切っているのだ。怒りを熟知している。面白いのは、怒りがどういうものかを表現する一言を、主役の別れた夫の彼女に言わせるシーン。非常に皮肉だ。それを聞いた主役の母親は、一瞬でどういうことか気づいた顔をして「その女の子を大切にするように」と別れた夫に告げる。芳醇なワインのようですよ、この物語構成。そしてそこはレストランで主役もやはりワインを飲んでいるのですよ。ブラックユーモア満載。ラストも素晴らしかった。

2点目は、ハートウォーミングに流れない。警察を非難した母親の行動(テレビにも出てしまう!)に共感して、いろいろな人が集まってくる。中心はその地域で立場が弱く、警察から差別を受けたことに恨みを持っている人間。母親と同様、警察に怒りを持っている人々だ。そんな人々の優しさに母親は明るさを取り戻していく・・・そんな話の流れにしても別に良かっただろう、楽だし(駄作中の駄作になるけど)。しかし母親の怒りは留まることはない。怒りはさらにエスカレート、ヒートアップ。差別をされている人間とのハートウォーミングな話などにはならないどころか、母親がそういう人々に優しくするということもない。淡々と物語は流れていく。

3点目は、主役の母親にフランシス・マクド―マンドを起用したこと。フランシス・マクド―マンドと言えば「ファーゴ」ですよ。ご存知ですか?コーエン兄弟の映画「ファーゴ」。ウィキペディアによると「ノースダコタ州ファーゴを舞台に、狂言誘拐による人間模様を描いたサスペンスストーリー」だけど、何故かコメディというすんげー不思議かつ面白い映画。この映画の主役がフランシス・マクドーマンドだったんだけど、コメディ映画としてのファーゴを成立させた立役者さんである。なんか不思議な魅力を持っていて、深刻なことをやっていても面白みのある女優さん。フランシス・マクド―マンじゃなければ「スリー・ビルボード」も重くて観てられなかっただろうし、ところどころに散りばめられているブラックユーモアにも気づかなかったかもしれない。フランシス・マクド―マンドありきの映画です、これは。今年度のアカデミー賞主演女優賞を獲得したのも納得。

日本で怒りの感情は否定的に語られることが多い。そんな書籍もたくさん出版されているし、アメリカでもアンガーマネジメントが重要視されている。そうなんだけど怒りを持たずに生きるのは難しい。問題はその怒りをどうやって発散させるのかということ。溜めこむと怒りは心の中で増幅していく。だから増幅する前に発散する方法を持つことが大切なんだろう。他の感情と違って怒りは上手に発散することができれば必ず心から消え去ってくれるし、怒りのエネルギーを他のことに向けて消化ならぬ昇華させることもできる。使い方さえ間違えなければ悪いものではない。

まあ、溜めこんで大爆発することになったこの映画のような物語もあるわけで。ただ、陰湿なことはしないから観ていてスカっとする。いま怒りを持っていてその感情に振り舞わされそうってな人には是非おすすめ。たくさん書いちゃったけど、こんなにたくさん書くだけ観る価値のある映画だったということです。うん、良い映画はやはり良い。

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