猫屋春子はかく語りき

CAT AND SPRING

春の嵐


曽我部恵一「春の嵐」

春の嵐が東日本で猛威を奮っているそうだ。春なのに嵐、春は穏やかなだけじゃないんだな。ところで私は風が昔から苦手だ。雪より雨より太陽より曇りより風の強い日が嫌いである。何故だか強い風に吹かれるとヤル気を失くす。立ち向かう気が失せる。髪も服も乱れる。先ほどまでホカホカしていた体が芯まで冷え切ってしまう。もうどうでも良くなる。どうにでもなれと思う。その場に倒れてしまいたいくらいの投げやりな気持ちになる。追風はまだいい。問題は迎風だ。なんのために風なんて吹くのだ。古い家の屋根が剥がれ、電柱や木が倒れ、川面はさざ波、トンビは行方不明になる。一度、目の前で強風が吹き、道路脇に立っていた交通標識が倒れたのを見たことがある。鉄の棒も風の前では手も足も出ない。誰も風の到来を喜んではいない。黄砂や花粉が遠くからやって来る。誰も風の到来を喜んではいない。喜ぶどころか迷惑がっている。なのに風はやって来る。風にのせていろいろなものを運んでくる。作りだされたカオスから秩序が生まれるというのなら風の役割はすなわちカオスを作り出すことか。暴力的だ、なんて暴力的なんだ。風に飛ばされればカオスになれるというのか。ならば私も飛ぼうじゃないか。風の中に。大嫌いな風の中へ。