猫屋春子はかく語りき

CAT AND SPRING

「変なおじさん」の系譜


[THE MANZAI 2017] 博多華丸・大吉 2017年12月17日

「変なおじさん」と言えば志村けんであるが、現在、芸人界の「変なおじさん」3人に私は注目している。1人目が博多華丸・大吉の華丸さん。2人目はナイツの塙さん。そして、3人目は和牛の水田さんである。水田さんは「なりつつある」「進化しつつある」が、1人目、2人目は完全に「変なおじさん」である。志村けんを始祖とする「変なおじさん」の系譜に連なっている。

私の中で、変なおじさんは、とくに変なことや奇抜なことを言ったりしたりするおじさんではない。見た目は普通のおじさんである。人が良さそうに見える。実際に人がいい。しかし、言っていることが「なんか変」「ちょっと変」「あれ?変?」なのである。先日、博多華丸・大吉の漫才を観たが、ボケの全てが華丸さんのこだわるお刺身の食べ方を中心としたものだった。ナイツの漫才では、塙さんはなんかおかしなことばかり言っている。何度指摘されてもYahoo!のことを「ヤホー」と言う。和牛の漫才では、水田さんのテンションの高さ、言っていることのズレ方、どれも少しずつおかしい。


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始祖である志村さんの「変なおじさん」は、変な顔をして奇抜な言動をする。「変なおじさん」ネタでは確かにそうである。しかし、私は、志村けんの「変なおじさん」を始祖とするのではなく、志村けん自体が「変なおじさん」の始祖であると考える。例えば、志村けんのラジオを聴いたことはありますか。お悩み相談のハガキに、一つもふざけたことを言ったりやったりしない。真面目に相談に答える。声のトーンはもちろん低め。面白い発言が出てくるわけがないと思われるほど、どこまでも真面目である。そんな人が「変なおじさん」や「だっふんだ」をやるのである。どこまでも大真面目にふざけるのである。あるときなんか「ずったらぽっか」というオチを考えるのに、何時間も費やしたらしい。「ずったらぽっか」だぞ。これを生粋の「変なおじさん」とせず、なんとしよう。志村けん正真正銘、「変なおじさん」の始祖である。いま私が、その系譜に連なるものとして注目する3人の芸人さんも、なんだかおかしな感じをこちらに与えるが、言うことやることは志村けん同様、いつも大真面目である。おかしい感じをわざと出そうとしていないし、そこにあざとさは一切感じられない。でも、ちょっとずつ表現するおかしさが、彼らを取りまく時空というか、世界観を歪ませる。観ている方は、そのワールドに引き込まれてしまう。


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「変なおじさん」は見た目はごく普通だ。変なことは一切言わないし、奇を衒った行動もしない。だけど、変なのだ。「変なおじさん」は、何かがおかしい。何がおかしいかは言葉で表現できないけど、とにかくどこかおかしい。でも、私は芸人ではそういうボケの世界観にどうしても引き込まれてしまう。大きな声でニギヤカに漫才をする芸人さんたちもいるが、華丸さんや塙さんのように、緩い感じで、どうにもおかしなボケを小さな声でかましてくる、そのおかしみにニギヤカさは勝てないような気がする。「変なおじさん」たちの小さな声を私は聞いてしまう。変であることを自覚しながらも、誰かに伝えなければならなかった彼らの衝動を、恥じらいを感じてしまう。きっと、そういう「変なおじさん」の人間性に、私は惚れているのだ。