猫屋春子はかく語りき

CAT AND SPRING

birthday


くるり - BIRTHDAY

 

今日は私の誕生日でも、あなたの誕生日でもない。

けど、この曲は、今日が誰の誕生日ということに関係なく素晴らしい。

 

発売されたのは、確か2005年で、

何故覚えているかと言えば、初めて行った中国での調査のときに、

この曲をちょうど持っていったからだ。

当時、携帯電話で音楽を聴くことはできなかったので、

発売されたばかりの、中国製の小さなMP3にダウンロードし、

毎日毎日この曲を聴いて、1カ月間の調査生活を乗り越えた。

帰国した途端、MP3からは何も聞こえなくなってしまった。

つまり、壊れた。

しかし、きちんと任務は終えた。

 

「いつか こんな風に あなたの笑顔につられて

 笑ったまま 次の 雨降る土曜日の朝に

 少し濃いめの 珈琲 たてたら

 寝ぼけた夢も 君の匂いになる」

 

中国の窓もない安宿で、中国語もわからず、話せず、

いわゆる、海外でひきこもりのような状態の私を、

この歌詞は何度、励ましただろうか。

 

お湯だと思ったら、水がシャワーから出てきたとき、

バスに乗ったけど、中国語で「停めてください」と言えず、

どこなのかわからない街に下りてしまったとき、

クソ不味いカステラのようなパンをたくさん買ってしまったとき、

この歌詞は、私に「これは寝ぼけた夢だ」と教え続けてくれた。

そして、それらは、今ではなかなか笑える思い出となっている。

 

寝ぼけた夢に、何らかのリアリティーがともなったとき、

それは匂いや思い出となって、実体として生み出される。

人間として生きるとことは、産み落とされた瞬間に始まり、

それ自身では実体のない時間が、

何らかのリアリティーをともなって実体となり、

自らの「生」がつくられる。

「生」とはつまり、歩いたり、話したり、躓いたり、

聴こえたり、嗅いだり、味わったり、それらの感覚的なことだ。

 

単なる誕生日の曲ではなく、

そうしたことも考えながら是非この曲を聴いてみてほしい。

何度も、繰り返し。