猫屋春子はかく語りき

CAT AND SPRING

MASK2016


The Mask Trailer

 

職場にマスクを被っていくことにした。

同僚からも上司からも「͡顔がコワイ」と言われるが、

本人にしてみれば、笑顔がないだけで何がコワイのか、

さっぱりわからなかった。

しかし、相手は「コワイ」と言っているのだから、

何かコワイのだろう。

 

そこで、おかめのお面をつけながら、仕事をすることにした。

おかめなら、始終笑顔を振りまき、コワイ表情ではない。

 

お面をつけて行っても、話しかけられることも全くないだろう。

案の定、私のお面を見ても、誰も理由を聞いてこなかった。

逆にやりやすい。しめしめと私は思った。

 

どんな仕事をしても、

私はそのお面のおかげで始終笑顔だった。

お面の下で難しい表情を作っていても、

お面の下で口汚い言葉を小さく呟いても、

おかめは始終笑顔でいた。

 

私は仕事中に椅子から立ち上がり、

1人の年配職員のところに行った。

若い女性しか女性とは認めず、

年齢のことでアラフォー女性職員にセクハラ発言ばかりを繰り返す、

そんな男性の年配職員のところに行った。

 

その職員に横に立って、

「おい、お前」と声をかけた。

表情は笑顔だ。

なんせ私はおかめのお面をつけている。

笑顔以外の表情には、逆になれなかった。

「おい、お前のことだよ」

大きな声で言うと、やっと反応して私の方を見た。

そいつが見たおかめはきっと笑っていたことだろう。

しかし、おかめの下の私自身の表情は、一体どうだったろうか。

 

ポケットから、小型の金槌を取り出し、

そいつが座っている上から、

重力に任せて金槌を握る腕を振り落とした。

近くに座っていた若い女性職員が金切声を上げた。

もう一度、重力に任せて金槌を握る腕を、そいつの頭上に振り落とした。

何度かやった後、頭の骨が割れたのだろう、

赤い飛沫が飛び散った。

その中でも、私のおかめは笑っていた。

終始笑顔だった。